運動障害性構音障害(Dysarthria)
言語聴覚士のための運動障害性構音障害学
構音の基礎からDysarthriaを引き起こす疾患、訓練方法までタイプ別に幅広い知識が得られます。
運動障害性構音障害とは?
簡単に言うと、構音とプロソディーの障害
*ここでの構音とは、発声発語の全過程を表す(呼吸・発声・調音)
詳しくは、後天性の疾患による、大脳皮質の運動中枢から抹消効果器の筋に至る系の
いずれかの病変による、構音器官の運動障害で起きる構音異常
失語症との違いは、言語面に問題がないこと
主な症状
・声:高さ,強さ,持続の異常、嗄声
・構音:歪み、省略、置換、音の付加、鼻音化
・プロソディー:リズム,速さ,アクセント,イントネーションの異常
・顔面,口腔:顔面神経麻痺、舌の運動機能の低下、流涎
タイプと原因
・痙性構音障害:両側性の上位運動ニューロン障害(核上性障害)
・弛緩性構音障害:下位運動ニューロン障害(運動単位の障害)
運動単位:下位運動ニューロンと支配されている筋線維
・失調性構音障害:小脳or小脳路障害
・運動低下性構音障害:錐体外路障害(パーキンソン症候群)
・運動過多性構音障害:錐体外路障害(舞踏病、ジストニア)
・混合性構音障害:複数の障害
・UUMN構音障害:一側性の上位運動ニューロン障害
運動ニューロン
上位運動ニューロン
錐体路、錐体外路、小脳系
障害→仮性球麻痺
下位運動ニューロン
抹消神経核、末梢神経、神経筋接合部、筋
障害→球麻痺
痙性構音障害
原因疾患
・脳血管障害(最も多い)
・頭部外傷
・低酸素脳症
・炎症
症状
・表情に乏しい
・流涎
・口唇・舌の運動制限
・軟口蓋拳上不全
→開鼻声
・呼気持続,発声持続の短縮
・アクセントや抑揚の異常
・声量の低下
・歪み,省略
・発話速度の低下
・下顎反射亢進
・舌引き込め反射亢進
・舌の委縮(−)
・筋繊維束性攣縮(−)
・軟口蓋反射(−)
痙性構音障害に対して筋力増強を行うと、異常運動パターンを強化してしまう
高次脳機能障害のリハビリテーション―実践的アプローチ
各障害の詳しい説明だけでなく、日常生活と診療場面での症状の現れ方や、評価・リハビリの具体的な方法についても書かれています。
弛緩性構音障害
症状
・筋緊張の低下
・筋力低下とそれに伴う運動範囲や速さの制限
・開鼻声
・気息声
・無力声
・歪み,省略
神経核レベルの障害
原因疾患
・ウイルス感染(ポリオなど)
・血管障害
症状
・筋の委縮
・線維束攣縮
末梢神経レベルの障害
原因疾患
・ギランバレー症候群
・腫瘍
・外傷
・炎症
症状
・筋の委縮
・線維束攣縮(±)
神経筋接合部レベルの障害
原因疾患
・重症筋無力症
症状
・筋の易疲労性
・筋力低下
筋レベルの障害
原因疾患
・筋ジストロフィー
失調性構音障害
原因疾患
・脊髄小脳変性症
→非遺伝性:皮質小脳委縮症、オリーブ橋小脳委縮症
→遺伝性:SCA1、SCA2、SCA3(マシャド・ジョセフ病)など
・腫瘍
・血管障害
・外傷
症状
・協調運動障害
・測定障害
→時間測定異常(運動の開始や終了が遅れる)
→変換運動障害(舌の出し入れなど運動がぎこちなくなる)
・筋緊張の低下
・振戦
・声の大きさが不規則
・開鼻声
・音の誤り方が不規則
運動低下性構音障害
原因疾患
・パーキンソン症候群
症状
・運動範囲の制限
・無動(寡動)
・見かけ上の運動速度の低下
・振戦
・固縮
・無表情
・Myerson徴候(眉間叩打反射)(+)のことが多い
・気息声
・音,音節の繰り返し
・声量低下
・抑揚に乏しい
心理学
心理学でわからないことはとりあえずこれで調べれば見つかる!!というくらいおすすめです。
運動過多性構音障害
症状
・歪み
・努力声
・声の高さが一様
・声の強さの急激な変動
急速型
原因疾患
・舞踏病
・ハンチントン病
*ミオクローヌスは構音に障害をきたさないことが多い
症状
・筋緊張の低下
・筋の不随意の収縮による、発声、構音の異常
・挺舌状態の維持不可
緩徐型
原因疾患
・アテトーシス
症状
・筋緊張の亢進
混合性構音障害
原因疾患
・筋委縮性側索硬化症(上位,下位運動ニューロンの障害)
・多系統委縮症
→オリーブ核・橋・小脳委縮症(小脳症状が主体)
→線条体黒質変性症(パーキンソン症状が主体)
→シャイ・ドレーガー症候群(自律神経機能の異常が主体)
・多発性硬化症(小脳症状、錘体路障害)
・ウィルソン病(錐体外路障害、小脳症状、パーキンソン症候群)
UUMN構音障害
原因疾患
・脳血管障害
症状
・一側性の運動障害
・歪み
医学系電子辞書
これで調べればほとんどのことが見つかります。勉強の強い味方です!
↓持っている電子辞書に入れられるソフトもあります。
用語
舌引き込め反射
舌への刺激で、無意識に舌を引っ込める反射
下顎反射
軽く口を開いた状態で下顎の中央を軽く叩くと、咬筋が収縮して一旦口が閉じる
軟口蓋反射
軟口蓋の刺激で軟口蓋が挙上する
Myerson徴候(眉間叩打反射)
眉間を指で繰り返し叩き、瞬きの様子を見る。
正常は5、6回で瞬きをしなくなるが、パーキンソン病ではいつまでも瞬きをし続ける
カーテン徴候
「あ」発生時、咽頭後壁が健側に移動する
左麻痺の場合、右側へ移動する
舌の偏位
挺舌時に、麻痺側へ偏位する
右麻痺の場合、右側に偏位する
とんでもなく役立つ検査値の読み方
正常値or異常値の場合どのような疾患が考えられるか、何をみている検査なのかがカラーで簡単にわかりやすく載っています。
標準ディサースリア検査
発声発語器官検査
発声発語器官の運動機能を測定し、
@どの器官に機能不全の兆候がみられるか
A機能不全の重症度と病態生理学的性質に関する情報収集をする
0(不良)〜3(良好)の4段階評価
@呼吸機能、A発声機能、B鼻咽腔閉鎖機能、C口腔構音機能について評価
発話特徴抽出検査
発話を聴覚印象に基づいて分析し、
@発話特徴から構音障害の有無も判定、
Aタイプと原因疾患の推定
B発生発語器官の生理学的機能の推定をする
0(良好)〜3(不良)の4段階評価
@呼吸・発声機能、A鼻咽腔閉鎖機能、B口腔機能、Cプロソディー機能について評価
発話速度の検査
北風と太陽(223モーラ)の音読
発話速度=223+繰り返したモーラ数−読み飛ばしたモーラ数÷所要時間
肺容量
GRBAS
0(正常)〜3(不良)の4段階評価
G:総合的な嗄声度
R:粗造性
B:気息性
A:無力性
S:努力性